昨今のビジネスシーンにおいて「DX」という言葉は広く一般的なものとなりました。
IT・デジタル技術の発展により画期的な技術や製品が登場しており、企業が競争力を強化するためにDXの推進は不可欠なものとなってきています。
建設業界においても各種法改正への対応も相まってDXの推進が強く求められています。
そこで今回は、建設業界におけるDXに着目して、業界の課題、DXの概要、今後建設DXを推進する企業に向けてDXの手順や成功事例を解説していきます。
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建設業界が抱える課題とは
なぜ、建設DXが求められているのか。まずは建設業界が抱える課題について解説していきます。
少子高齢化による人手不足
2022年時点で建設業就業者の年齢別の割合は、60歳以上が約26%、29歳以下が約12%となっており、若手入職者が不十分であることがわかります。(出典:国土交通省「建築BIMの意義と取組状況について」)
建設業の3K(きつい・汚い・危険)のイメージは、近年払拭されてきたように思います。
しかし、他業界ではリモートワークが進み、ワークライフバランスが重視されている今、抜本的な改善がなければ、人手不足の解消は難航するでしょう。
対面主義や膨大な紙資料、アナログ業務による低い生産性
2021年時点で建設業の労働生産性は、2,944円/人・時間であり、全産業の4,522円/人・時間と比較して、約35%低下しています。(出典:日本建設業連合会「付加価値労働生産性」)
製造業では、ロボットがライン作業を行いますが、建設現場では、人が作業を行い、人が管理することが一般的です。
安全管理においても、品質管理においても、一歩間違えば、命を奪う可能性があります。
カメラなどで遠隔で現場を見ることは容易になってきましたが、現場に足を運ばなければ気付けないことも多く、「対面主義」から逃れることは容易ではありません。
加えて、請求書、契約書類、図面など膨大な量の紙資料を取り扱うため、書類のスキャンや送付など、付随するアナログ業務が多いことも課題となっています。
常態化する長時間労働
2022年時点で建設業の年間の労働時間は、1,986時間であり、全産業の1,718時間と比較して、約14%増加しています。(出典:日本建設業連合会「労働時間の推移」)
長時間労働は工期を守るためのものです。工事が遅れると違約金を請求されることもあるため、残業や休日を返上して遅れを取り戻すしかありません。
2024年4月には建設業の時間外労働の上限規制が適用されますので、適正な工期が確保されなければ、制限を超過した労働時間はサービス残業の形となってしまう可能性もあるでしょう。
求職者にとって魅力的な働き方とは言えず、今後も入職者が増えることなく、離職者は増え、さらに深刻な人手不足に陥っていくことが想定されます。
求められる建設DX
DXとは、Digital Transformation(デジタルトランスフォーメーション)の略語で、直訳すると「変革」です。
デジタル技術を活用して、レガシーシステムからの脱却、新たなビジネスモデルの創出、競争上の優位性の確立を実現することを指します。
DXと聞くとシステムやツールの導入がイメージされますが、ツールの導入ではなく、「新たな価値を生む」ことに真意があります。
そして「建設DX」は、国土交通省が推進する「インフラDX」のひとつを指します。
国土交通省ではインフラDXにおける2つの変革を掲げています。
1つ目は、「社会経済状況の激しい変化に対応し、インフラ分野においてもデータとデジタル技術を活用して、国民のニーズを基に社会資本や公共サービスを変革する」こと。
2つ目は、「業務そのものや、組織、プロセス、建設業や国土交通省の文化・風土や働き方を変革する」こと。
2つの変革によって、「インフラへの国民理解を促進すると共に、安全・安心で豊かな生活を実現する」という目標が設定されています。
建設DXに用いられるデジタル技術
ここからは、建設DXで用いられるデジタル技術を、導入の難易度ごとに解説します。
【入門編】タブレット
施工業務は図面を基に進行します。現状、図面を紙で何枚も持ち歩いている現場も多いでしょう。そのような場面で活躍するのがタブレットです。
- データなので紙のように時間経過で劣化せず、常に綺麗な状態で図面を確認できる
- 拡大表示や書き込みも可能
- 現場に行くとき、どの図面を持っていくか準備する手間が省くことができる(忘れたときに事務所に戻る必要がない)
- 図面や書類の受取、チェック、返送の一連の流れを、タブレットひとつで完結させることができる
このように、タブレットのメリットは多岐に渡ります。この後に紹介するデジタル技術もタブレットがあれば、活用の幅が広がります。
まずは、DXの第一歩として、タブレットの導入を検討してみてはいかがでしょうか。
【入門編】クラウド化
タブレットをフル活用するにはクラウド化も必要です。データの保存場所をクラウド上にすることで、インターネットを通じてどこからでもアクセスできるようになります。
GoogleDriveやDropbox、OneDriveといったクラウドサービスはデータ量にもよりますが、比較的安価で手軽にスタートできます。
クラウド化によりスマホやタブレットからいつでも図面や書類にアクセスできます。クラウド上からデータをタブレットに読み込めば、特定のアプリがなくても、書き込み、保存、共有をすることが可能になります。
【初級編】SaaS
SaaSとは、インターネット経由で利用できるソフトウェアを指します。近年は施工管理に特化したソフトウェアも数多く登場しています。
具体的には、図面の閲覧・共有ソフト、電子工事黒板を用いた工事写真撮影ソフト、施工管理者・作業員間のコミュニケーションツールなどがあります。
特に工事写真関連業務はソフトの活用が有効です。電子工事黒板のメリットは、黒板を事前に準備しておけること、雨天時でも撮影が容易であること、撮影した写真をすぐに共有できること、などがあります。撮影した写真を自動で台帳にする機能があるものを選べば、事務作業の時間短縮に期待ができるでしょう。
【中級編】3Dスキャン
3Dスキャン技術は、建物や空間をデジタル化し、状況を記録する手段として活用されています。iPhoneのProモデルに搭載されるLiDARスキャナは、高精度な3Dモデリングを可能にします。ユーザーはアプリを通じて、手軽に空間をスキャンできます。
「Scaniverse」アプリを例に挙げると、この技術は敷地の事前調査や周辺状況の記録に特に有効です。
また、3Dスキャンデータは、写真では得られない空間理解に活用されます。加えてスキャンデータを点群データに変換し、BIMソフトウェアに取り込むことも可能で、建設プロジェクトの設計や管理を効率化します。
【上級編】BIM
BIMは、建物を3次元モデルとして表現し、そのモデルに部材の仕様や仕上げ品番などの詳細な情報を組み込むことにより、設計から建設、さらには維持管理に至るまで幅広く活用できる技術です。
日本で広く利用されているBIMソフトウェアには、RevitやArchicadなどがあります。
建設現場では、設計者によって作成されたBIMモデルを基に、施工者がクレーンなどの重機を配置して、より効率的かつ正確に施工計画を立てることが可能になります。
さらに、実際の敷地の点群データをモデル化することで、敷地の現状を正確に反映した上で施工計画を策定できるようになります。
【番外編】ドローン
ドローン、または無人航空機は、遠隔操作によって操縦可能な航空機です。建設業では、ドローンにカメラが付属しているマシンが使用されています。
主な用途は、建築物や構造物の点検で、ドローンが捉える映像を用いて、従来よりも効率的に点検作業を完了させることができます。
また、近年では、外壁タイルの点検を効率化するために、赤外線技術を利用した調査が可能なドローンも開発されています。
これにより、構造物の健全性を非侵襲的に、かつ精密に評価することが可能になり、建設業界における保守・管理作業の質と速度が大幅に向上しています。
建設DXの現状は?なぜ進まない?
当メディアで調査したアンケート結果を元に、建設DXがなぜ進まないのかを分析します。
社内にDXを推進する人材がいない
アンケート結果では「導入しても使いこなせない・浸透しない」が最も多くの声として挙げられました。
その背景には、「社内にDXを推進する人材がいない」という、次に多い課題が隠れています。DXを積極的に進めている大手建設会社では、「DX推進部」の設立など、組織的な取り組みが見られます。
一方で、中小企業においては、外部からの人材確保が一筋縄ではいかない実情があります。そのため、社内からDX推進に適した人材を見出す戦略が求められます。
特に、施工管理経験を持ち、ITや効率化に長けた人材の活用が望ましいです。確かに、施工管理者の再配置は一時的な現場の負担増となり得ます。
しかし、現場経験者がその知見と改善要望を基にDXを推進することで、速やかな変革が期待でき、長期的にはプラスの効果が見込まれます。
また、もし社内で適切な人材を見つけることができない場合でも、専門の建設DXサービスを提供する外部企業の支援を受ける選択肢もあります。これらのサービスは、DX導入の加速に役立つかもしれません。
費用対効果が合わない
アンケートで分かった第二の課題は、「費用対効果が合わない」という点。
紙を主要なツールとする建設業界にとって、DX導入の初期投資は、無視できないほど高額に感じられるかもしれません。
例えば、最低価格のiPadでも一台あたり49,800円と、タブレットの導入コストは決して低くはありません。
加えて、必要なケースや保護フィルム、ペンを含めれば、一人あたりのコストは約6万円に上ります。
それでも、建設現場でのDX推進には、タブレットの導入が不可欠です。
費用対効果の一例として残業時間の削減が挙げられますが、サービス残業が横行する現状では、その効果を直ちに数値で判断するのは難しいと言えます。
「数値的な成果」ではなく、現場からの「実際に活用している声」を効果の指標として考慮するという新しい視点も必要となってくるでしょう。
建設DXの成功事例
次に建設DXの成功事例を紹介します。
スーパーゼネコンにおけるツールやソフトウェア導入の声を集めました。
大林組DX担当者が語るDX化の手ごたえ…「iPad1台あれば他の荷物はいらなくなった」
大林組は、2012年に4,000台のiPadを導入しました。
この取り組みにより、iPadが工事写真管理などの業務プロセスを根本から変え、事務作業の時間を大幅に削減しました。
導入初期には独自で工事写真管理システムを開発していましたが、今日では多様なアプリの利用により、iPadの活用範囲はさらに拡大しています。
DX本部の堀内氏は、iPad導入による変化について、「昔は、紙袋に図面を入れて持って行ったりしたんです。今、iPad1台にすべての図面が入ってる。先ほど話したデジカメがなくなったり、黒板もなくなった。iPad1台あれば他の荷物はいらなくなった」と話しています。(引用元:https://www.joqr.co.jp/qr/article/65484/)
タブレット導入は、施工管理における新たな標準となっています。
大成建設 田辺氏が語る、建設業のICT活用「デジタル化により企業内のプロトコルを変える」
業務改革推進担当チームリーダの田辺氏は、ICT活用における一番大事なモノは「プラットフォーム」だと語っています。
次々とサービスが開発されても、人の気持ちは追いつかない。だからこそ、「長期的に安定して活用できるプラットフォームを選定することがポイント」だとしています。(引用元:https://www.sbbit.jp/article/sp/33129)
そこで、大成建設では、協力施工会社と共に使用するプラットフォームとして、「建設サイト」を選定しました。
建設サイトとは、労務・安全衛生管理の書類を作成するサービス「グリーンサイト」でお馴染みのクラウドサービスです。
2003年に建設サイトを導入し、建設サイトが現場に浸透した2011年にiPadの配布を開始しています。
タブレットをただ使うことを促すのではなく、「一元管理した情報にどこからでもアクセスできる」というメリットを、利用者が非常に感じやすい導入プロセスとなっていますね。
日本建設業連合会「建設DX事例集」
最後は、建設DXの事例を91個紹介した事例集より引用です。
北野建設株式会社では、AutoCADの3次元ソフトを利用して、鉄筋の干渉チェックを行っています。
採用の効果として、「3D図面で明示するため、受注者、発注者、協力業者各々での理解も早いものであった」と記載しています。(引用元:https://www.nikkenren.com/publication/fl.php?fi=1202&f=DXcase_202203.pdf)
3D図面は、認識のズレを防ぎ、円滑なコミュニケーションにも寄与します。
また、鉄建建設株式会社では、画像解析やAIを利用したコンクリート打設管理システムを導入しています。
コンクリートの締固め不足やコールドジョイントの警告を促し、生産性向上の側面だけでなく、品質向上に寄与しています。
まさに、DXの趣旨である「企業としての新たな価値」を創造していますね。
この他にも様々な活用事例を見ることで、まだ知らない業務の改善ポイントに気付くことができますよ。
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まとめ
建設DXについて解説しました。
2024年4月から、時間外労働の上限規制が適用される今、何もしない訳にはいきません。まずは入門編からはじめて、効果を実感しながら進めていきましょう。
きっと明るい未来が待っています。